プロジェクト Project
美食地政学に基づく
グリーンジョブマーケットの醸成共創拠点
JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)地域共創分野
一次産業は激化する気候変動の影響を大きく受けますが、とりわけ海洋生態系の変化は著しいものです。これまで培われてきた地域の食文化も気候変動への適応が求められる一方で、食は最も保守性の強い文化の一つでもあります。一次産業を支える環境・生態系への理解、食文化の気候変動への適応については、学問知が不足している分野であり、これについて学側で知の創出に向けた研究開発を行います。また、未利用農林水産物の利活用をすすめるにあたり、問題共有・意識啓発を通じて官との協働によりシステム設計をすすめます。また地域の高校もプロジェクトに参画し、事業者とともに未利用資源を活用した製品共同開発を行うとともに、グリーンジョブの創出支援ならびに共創教育の場作りもあわせて行います。本プロジェクトを通じ、地域における将来世代の就労機会の確保に向けて、一次資源供給・消費に関わる環境管理・保全、未利用資源の活用、流通、提供のサプライチェーンを通じた「職」をグリーンジョブとして位置づけ、若手人材のキャリアアンカーになるようジョブマーケットの醸成を目指します。
ビジョン Vision
気候変動に適応した食のサプライチェーンを実現し、
世代を超えた人の繋がりを育み、
自然に寄り添い豊かに暮らせる地域共創社会
気候変動による気象災害の拡大、海流蛇行の影響などにより、陸域・海域における環境変化が著しい。とりわけ海洋生態系の変化は著しく、一次産業や食を柱に成り立つ地域産業にとって、暮らしに大きく影響し、地域の食文化は気候変動への適応が強く求められる。観測データに基づく自然資本についての知の深化と、気候変動が生態系にもたらす影響の将来予測に向けた学問知を構築する。創出される知に基づき、地域特有の食資源環境(里山・里海)を保全すると同時に、事業者と連携して現状では市場で流通しにくい未利用・低利用食資源の利活用の場を創出・拡大し、気候変動に適応した食のサプライチェーンの構築と、産地廃棄や食品ロス最小化を実現する。多品種・小ロット・発生時期が不安定という性質をもつ食資源の活用は既存のサプライチェーン構造の中では困難であるが、本拠点で提案する地理的環境認証の仕組みに基づき、規格外等の理由や食文化の違いで廃棄されていた食資源を活用する価値観を社会全体に浸透させ、それらの利用を促進する仕組み作りを進める。さらに食に関わるサプライチェーン全体に渡る職をグリーンジョブとして維持・形成し、その重要性を、多世代が参加する教育コミュニティを通じて共有し、将来世代(高校・大学生・専門学校生)のキャリアアンカーに地域のグリーンジョブという選択肢を提供する。将来世代が地域のグリーンジョブを担うことで、都市部への人口流出抑制と地域経済の活性化につなげ、自然に寄り添いながら豊かに暮らせる地域社会を実現する。
ターゲット Target
4つのターゲット
4つをターゲットとして、
美食地政学に基づくグリーンジョブマーケットの創出を行います。
Target1
T1. 知の創出
自然資本を適切に保全管理・利活用するための知的基盤の構築
ビジョンに掲げた気候変動に適応した食のサプライチェーンを実現するためには、消費・生産活動が自然資本の適切な管理・保全の上に成り立つ必要がある。そのために激変する自然環境の現状を理解した上で、精緻な観察データに基づき自然資本を管理・保全しつつ活用することが重要である。近年の急激な環境変化などにより、沿岸域では牡蠣の養殖における大量斃死や、海苔養殖における色落ちなどが発生している。季節や天候で変化する沿岸域の環境を常に把握しながら、効率的な沿岸養殖環境を実現することで、生産性向上と環境保全を同時に達成する。さらにアーカイブデータの活用により沿岸環境変化の予測モデルを確立することで、より能動的な一次産業活動に繋げる。また陸域と沿岸域を接続する栄養塩挙動への理解を深め、森林整備や排水処理技術等、産業活動と環境への影響の摂動を踏まえた環境保全を目指す。生み出された知は、一次産業事業者や研究者のみの共有では十分ではなく、食と自然資本管理保全に関わるサプライチェーン全体で活用することが求められる。科学知に基づく指標やブランディングなど、知の共有・普及に向けた仕組みが不可欠であり、それに向けた知の共有基盤の構築が必要である。
Target2
T2. 美食サプライチェーン
気候変動に適応する食を実現するための新たなサプライチェーンの創出
ターゲット1で構築した知を基盤に、適正な環境で生産された食資源を社会に流通させるサプライチェーンを実現することで、陸域側の活動を間接的に自然環境保全に繋げる。環境に対して適切な配慮の上生み出された食資源の活用には、家計消費の他、加工流通やレストランや宿泊などの観光サービスにおける理解と参加が重要である。また農業・畜産業における肥料や飼料としての活用、化粧品原料や食品補助原料としての活用をする事業者や産業の取り組みも、自然の恵みを余すことなく活用するために必要である。また陸域・沿岸域における栄養塩類の循環利用を促すために、廃棄物処理事業者の参加も含めた資源の流れのライフサイクル管理が求められる。これを実現するには管轄省庁は環境省(環境負荷物質管理)、国土交通省(廃棄物処理設備管理)、農林水産省(食を支える環境・生産管理)、経済産業省(産業活動支援)と多岐にわたり、サプライチェーン全体を網羅した食資源の流通指針の設計と規格化が肝要である。本プロジェクトで開発する製品やサービスの適正な流通・普及をめざし、美食地政学に基づいた食に関わるサプライチェーンの確立を図る。
Target3
T3. エコシステムの醸成
自然と共生した豊かな地域経済実現のためのマーケットエコシステムの醸成
生産者と消費者の間の情報の分断により、環境親和型の生産活動を行っている一次事業者の生産物は必ずしも市場で選択されず、安価で環境負荷の大きい製品選択が起こりがちである。生産者と消費者の双方向のつながりを密にする場を生み出すことで、生産地の環境情報の分断を防ぎ、消費者の行動変容を促す。環境親和型生産者の製品選択を行う消費者の増加は、生産者の行動変容への好循環を引き起こすことが期待される。2021年6月に「自然関連財務情報開示タスクフォース」(TNFD: Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の正式発足を受け、企業において炭素排出に関する情報開示のみならず、自然関連財保全への積極的な取り組みが求められるようになっている。これらを受け投資や金融の流れを自然資本の適切な管理による食の生産活動へ引き込むことのメリットが強く認識されるようになった。ここでは、ターゲット1で行う自然環境の観察と管理・保全事業や、ターゲット2で目指す気候変動に適応したサプライチェーン構築を支える市場環境の整備と、認証事業の運用や、行政支援を促す制度設計を目指す。
Target4
T4. グリーンジョブ教育
地域グリーンジョブマーケット醸成のための教育コミュニティ形成
食料生産の多くは地方経済が担い、それを支える地域の自然資本の管理・保全には適切な知とスキルを有する人材が求められる。一方、次世代労働力となる大学生・高校生が将来、就職を希望する職種、産業が地域経済には少なく、人材の多くが都市圏に流出しているのが現状である。地域事業の減少は税収の縮小につながり、地域環境を保全するための費用を自治体が負担できなくなるなどの悪循環が生ずる。そのため、地方経済においては、一次生産事業者に寄り添って気候変動をはじめとする知の共有を支援する事業や、地域の自然資本を持続的に管理・保全する職を、広くグリーンジョブとしてサプライチェーン全体で維持することで地域における就業機会の維持と、食に関わるサプライチェーンの環境管理・保全を両立することが求められる。そのため新たに求められるスキルを有し、変化する環境と経済への影響についての理解を深めた人材育成は急務である。しかしながら教育現場のみで新たな人材育成に対応することは困難であり、知の共有(高大連携)、行政支援(教員のスキル向上)、共創キャリア教育(事業者との連携や、地域の協力による実践教育の機会提供)が必要である。地域のすべての仕事をディーセントワーク(decent work)「働きがいがある人間らしい仕事」かつグリーンジョブとし、かつ若者世代が地域グリーンジョブをキャリアアンカーとして選択する機会を創出するための、教育コミュニティを実現する。
研究開発課題 Theme
研究開発課題
4つのターゲットを達成するために、6つの研究開発課題を進めることで、地域における共創知を生み出し地域課題の解決を目指します。